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日本同盟基督教団 教団事務所 

認知症と教会Vol.5 教会は認知症バリアフリー 社会の源泉

認知症と教会Vol.5

教会は認知症バリアフリー 社会の源泉

東京基督教大学 教授 井上貴詞

2023年4月に「認知症基本法」が制定されました。この法律は、認知症になっても人の尊厳が保たれ、あらゆる社会的障壁(人々の偏見や無理解、環境上の問題)が解消される共生社会の実現(バリアフリー化)を理念としています。果たして教会ではどうでしょうか。
認知症が初期から中期へと進行してしまうと「家に引きこもる」と「昼夜問わずに家から出ようとする」のどちらかの症状が表出する事があり、周囲の人は困惑します。一方は日常生活での失敗が増えて自信を無くし、人から遠ざかります。もう一方は現在の不安に耐えきれずに子育て中の母親や会社員時代の自分にタイムスリップし、あくせくと外に出ようとします。この2つは両極端に見えますが、自己の居場所の喪失という点では同根です。周囲からは奇行に見えても、本人にとっては懸命に生きようする対処行動です。
認知症の初期症状が表出するや否や教会から遠ざかってしまう方がいます。本人が教会生活を続けたくても、家族が「教会に迷惑をかけてはいけない」と足止めすることもあります。確かに不穏な言動やトラブルなど認知症の行動・心理症状が顕著な場合は、教会に通う事自体が困難になります。とはいえ、あまりの早期から本人が望んでいる教会生活に制限をかけると、逆に孤独感や不安が増幅し、認知症の進行を早めてしまう事も然りです。
そこで、教会でも可能な認知症の進行を穏やかにする環境づくりを提案します。
1つ目は「馴染みのある奉仕の継続」です。認知症の初期であれば周囲の助けと工夫で掃除、礼拝受付、生け花、食事づくり、聖歌隊等長年慣れ親しんだ奉仕の一部継続は可能です。ある方は、認知症になっても礼拝の受付奉仕を続けていました。新来者の顔や名前は覚えられませんが、長年その受付に立って新来者を迎える笑顔とあいさつ、週報や聖書を手渡す動作には、褪(あ)せる事のない輝きがありました。また別の方は、認知症になっても主日に提供される昼食の購入、受け取り、下膳ができていました。からだに刻み込まれた記憶(手続き記憶)は衰えにくいのです。家庭の介護で苦労されているご家族には驚きと新鮮な発見です。
2つ目は、「聴く、歌う、語る場」の環境整備です。聖書朗読、馴染みのある賛美を歌う事・聞く事、補聴器やワイヤレス送受信機の活用(難聴対策は認知症予防)、同年代や若い世代との交流(教会の歴史を語っていただく等の役割の付与)です。脳への刺激と役割、何よりホッとできる安全地帯があることは認知症の進行を遅らせ、介護者家族への助けにもなります。
こうした取り組みが定着するまでに試行錯誤はつきものですが、認知症の人と共生する貴重な学びと実践の機会となります。もちろん、一定の知識や専門家による助言は必要です。
教会は、比類なき霊のいのちで結ばれたキリストのからだであり、その弱く見える部分が尊いものとされていく(Ⅰコリント12章22節)、認知症の人を包み込む源泉を有するコミュニティです。高齢者の15%が認知症、さらにその割合が増え続ける日本社会において認知症の人のバリアフリー化は、神の愛を証しする宣教課題の1つです。

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