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キリスト教史ぶらり旅 第10回 教父たちとその著作

キリスト教史ぶらり旅 第10回 教父たちとその著作

和泉福音教会牧師
東京基督教大学非常勤講師
お茶の水聖書学院講師
 青木 義紀

キリスト教信仰と教会の成熟のために、古代のキリスト教会とそこに生きた人々の信仰を知ることは有益です。そしてそのために、「教父」( C h u r c hFathers)と呼ばれた人々の著作に触れることは避けることができません。歴史の教会は、聖書に立ち返ることを最も重要なこととし、それに次いで古代の教父たちの信仰と実践から学ぶことも重んじました。その姿勢は、「聖書のみ」(sola scriptura)を重要なスローガンとした宗教改革においても例外ではありませんでした。「聖書のみ」とは、聖書しか読まないことでも、聖書以外から学んではいけないことでもありません。それは、私たちの「信仰と生活の唯一絶対の規範」であることを意味するのであって、それに基づく信条・信仰書・神学書・証し等の有益性を排除するものではないのです。聖書に基づく良き教えや伝統からは、私たちも積極的に学ぶべきであって、それでこそ主の教会とキリスト者の生に、豊かさと成長をもたらすのです。

「教父」とは、古代時代の教会・信仰・教えの基礎を築いた聖職者・思想家・修道士などの総称です。かつては、① 教理の正統性( d o c t r i n aorthodoxa)、②生活の聖性(sanctitas vitae)、③教会の承認(approbatio ecclesiae)、④教会史の古代性(antiquitas ecclesiae)の4つの条件を満たす者と定義されていましたが、現在では、これに限らず、広く古代から中世初期に活躍したキリスト教の著作家たちを総称して「教父」と呼ぶ傾向にあります。教父たちが使用した言語は、コプト語(エジプト)やシリア語もありますが、圧倒的に多いのがギリシア語とラテン語でした。

教父たちの著作で、最もよく使用されてきた権威ある著作集は、19世紀フランスの司祭であったミーニュ(Jacques PaulMigne, 1800-75)という人が編纂した『ミーニュ教父叢書』(P a t r o l o g i c acursus completes)です。
全体は、「ギリシア教父叢書」と「ラテン教父叢書」の2部に分けられますが、前者は全165巻、後者は全221巻に及ぶ膨大なものです。

日本語でも、教父の著作集(●)や抜粋集(★)が出ています。代表的なものを紹介しておきます。
●『キリスト教教父著作集』全22巻(教文館,刊行中)。
●『キリスト教古典叢書』全16巻(創文社,1963年)。
●『中世思想原典集成』全20巻+別巻(平凡社,1992-2002年)。
★『原典 古代キリスト教思想史』全3巻(教文館,1999-2001年)。
★『キリスト教神学資料集』全2巻(キリスト新聞社,2007年)。

これらの著作をコツコツ読みながら、古代時代に思いを寄せるのもよい経験になります。

また最近では、日本を代表する教父の研究者たちによって、改めて入門書が出版されましたので、そこから教父に触れてみるのもお薦めです。
・土井健司『教父学入門:ニカイア以前の教父たち』(新教出版社,2022年)。
・関川泰寛『キリスト教古代の思想家たち:教父思想入門』(ヨベル新書,2023年)。

教父たちが生きた古代地中海世界は、ギリシアやローマの文化が栄え、異教的な思想が圧倒的な影響力を持つ地域でした。彼らは決して、でき上がったキリスト教世界に生きたのではなく、そのような異教世界に向けて福音の種をまき続けたのです。そこには当然、宣教の戦いがありました。その点では、私たち日本のキリスト者と重なるところがあります。そのような共通項を見出しつつ、教父たちの思想、信仰、生き方に触れてみていただきたいと思います。

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