ハラスメント相談窓口には、教師等と非会員の信徒との間で「よその教会に行け」と言った言わないの相談が寄せられることがあります。教会籍のない非会員の場合は、こうしたトラブルが起こりやすいのかもしれません。そこでこうしたトラブルを未然に防ぐために本文書を書きました。以下の事例はこちらで考案した架空のものであり、実際の相談ではありません。
仮想事例 ここから
長い間、教会から離れていたクリスチャンのA氏は、X教会のネット動画の説教を見て気に入り、そこに集うようになった。やがてX教会が教会の社会的責任を強調していることに気付いた。そこでA氏は『政治の話しばかりで恵まれないし、世間の証しにもならないから止めて欲しい。自己啓発セミナーなんかもして欲しい』と、教会内の誰彼構わず言い始めた。
教会員たちは、最初はA氏の話に耳を傾けていたものの、何度も聞かされるので苦痛になり、教会のB牧師に相談した。B牧師はA氏と面談してX教会の方針を丁寧に説明したが、A氏は納得せず、その後も言動をやめなかった。
そこでB牧師はA氏に面談し、「Aさんのお気持ちは理解いたしました。私たちの教会は政治の話ばかりしているわけではありません。ただ私たちの教会は社会的責任に重荷をもって教会形成をしております。Aさんは私たちの教会で過ごされるのは苦痛でしょう。私たちもAさんのご意見を聞き続けるのは正直辛いのです。ですのでもし今後もAさんが私たちの教会に集うのであれば、教会の方針をご理解していただきたいのです。しかしそれが難しいのであればAさんが望まれるほかの教会に行かれるのが、お互いの平和のためになると思いますがいかがでしょうか」と言った。
その後A氏は相談窓口に「よその教会に行けと言われた。これはハラスメントではないか」と訴えた。
仮想事例 ここまで。
この事例はハラスメントに当たるでしょうか。
この事例の場合は、ハラスメントに当たらないと言えます。一般論として、A氏のような非会員に対して、その人の教会観に合う「よりふさわしい」他の教会に移ることを勧めること自体は、必ずしもハラスメントには当たりません。教会が正当な方針をもって教会形成に当たる場合、その方針に反する非会員を他教会に勧めることはあり得ます。ただしその方針が不当であるならハラスメントに当たります。非会員に他教会に移ることを勧めることが正当だとしても、その際のコミュニケーションに不当行為があれば、それがハラスメントに当たります。ですから非会員に他教会に移ることを勧めるに当たっては適切で配慮あるコミュニケーションを取る必要があります。まずは非会員の教会観をよく知ることが不可欠です。教会の方針に対して不安や疑問を抱いている非会員もいるかもしれません。そこを丁寧に聴くことが大切です。相手の気持ちに理解を示しつつ何が是で何が非かを心を尽くして話すことが大切です。対話を拒否せず、怒らず、高圧的にならずにです。同調圧力を掛けたり、噂話を流したりするのはもってのほかです。時として非会員の教会観は、これまで気づかなかった当該教会の文化や価値に気づかせてくれるかもしれません。奉仕等で教会形成に深く貢献している非会員に対して他教会に移ることを勧める場合は一層丁寧なコミュニケーションが必要です。この観点からすれば、非会員の教会観を見定める前に奉仕に携わらせることは慎重であるべきと考えられます。
なお「よその教会に行け」とは異なりますが、たとえばコロナ禍で会堂出席を控えてほしいという場合があるかもしれません。その場合も上記のことを参考にし、人格尊厳問題にならないように配慮してください。
互いの人格が尊重され、安心して集える教会でありたいものです。