日本とアジアと世界に仕える Japan Alliance Christ Church
日本同盟基督教団 教団事務所 

認知症と教会 Vol.4

認知症と教会 Vol.4

認知症の人から学ぶ教会へ

東京基督教大学 教授 井上貴詞(土浦めぐみ教会教会員)

【認知症基本法の施行】
昨年成立した「共生社会の実現を推進するための認知症基本法(以下、「認知症基本法」と略す)」が2024年1月1日に施行されました。認知症基本法は、①認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすこと、②認知症の人を含めた国民一人ひとりがその個性と能力を十分に発揮し、相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会の実現、という2点を目的としています。認知症について、だれも「我が事」として捉えることができるように、今後ますます学校教育や企業などにおいて、認知症についての正しい知識を普及させる働きが促進されることでしょう。

【認知症サポーター】
認知症の人の理解者、支え手として認知症サポーター養成講座が全国で実施され、現在1 5 1 0 万9 6 5 8 人(2023年12月末日)のサポーターが誕生しています。10代のサポーターを差し引いても、日本国内の就業者数の5人に1人くらいが認知症サポーターになっているという計算になります。みなさんの教会ではいかがでしょうか。
ある教会で礼拝後に認知症サポーター養成講座が開かれました。ほぼ全員が認知症サポーターとなったのです。その講座の中で認知症の人の介護経験者の話を聞いたある教会員が「うちのおばあちゃんにしていたことは、まるで虐待であったかもしれない」と神さまの前に悔い改めたそうです。世間一般より高齢化が進んでいる教会で、世間一般よりも認知症の人への理解に欠けているという事実がないでしょうか。もし、そうなら教会内の助け合いも地域への伝道もうまくいかなくなります。

【まずは一人の人に向き合う】
認知症について知識を増やすのは有益ですが、大切なのは認知症になった方と正面から向き合い、その人から学び、共に生きようという姿勢です。その時のポイントは1人で抱え込まないこと。2人、3人と共に祈り、学びあい、助けあう仲間を作ることです。
最も悪いパターンは、家族が「うちのおじいさんは認知症になってご迷惑になるので教会には行かせない」と言って、突然教会生活を中断させてしまうことです。これは、場合によっては本人を絶望の奈落の底に突き落とすことになりかねません。教会員が認知症を発症したとしても、その方がそれまでの教会の中で果たしてきた役割をできる範囲で遂行できるようにサポートする。そうすれば、その方の認知症の進みは緩和され、尊厳も守られます。なぜなら、認知症になったからといって、すぐに何もできなくなるわけではないからです(もちろん、専門家の助言は必要です)。
認知症になったある教会のAさんは、数か月間周囲のサポートで礼拝の受付奉仕を継続する事ができました。もちろん、求道者の顔や名前を覚えることはできません。しかし、とびっきりの笑顔で新来者を迎え、聖書や賛美歌を用意して貸し出すAさんの輝く姿がそこにありました。体の中に刻み込まれた記憶(手続き記憶)は忘れないのです。まずは1人の人との出会いを大切に、その人から学んでいくプロセスを大切にしたいものです。できる限り悪いパターンにならないための知恵と工夫を、次回からは各論的に分かち合っていきます。

Print Friendly, PDF & Email